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新すまい論

すまいはいま② 生きものの巣とヒトの巣

生きものたちのつくる巣

少し前「世界一美しい元素図鑑」などの図鑑シリーズがヒットし、様々な分野でこのところなにかと図鑑ばやりなのですが、すまいに関連するものとしては、エクスナレッジが発行した『生きものたちのつくる巣109』(鈴木 まもる著、2015)が興味を引きました。

㈱エクスナレッジは前身が㈱建築知識で、建築関連分野が専門の出版社ですから、本書も生き物たちがどうやって巣を構成するかという建築的な視点で編まれています。
すまいが、生物学上のヒトの「巣」と呼べるものであるとすれば、どういった共通点や相違点があるでしょうか。興味のあるところです。

同書はイラスト集なのですが、いくつかピックアップしてみます。

同書には、ミツバチなどの昆虫や哺乳類、深海生物など、様々な巣が収められているのですが、なんと言っても数も多く、多様で興味を引かれるのが、鳥の巣です。
誰に教わったわけでもないのに、それぞれの種に固有で複雑な構築物を正確につくれるのか、とても不思議です。
じつは、哺乳類で巣をもつものは少ないのですが、鳥で巣がないのは少数派なのだそうです。

生きものたちの巣を概観すると、つくづくその「エコ」なありように感心させられます。巣という構築物は自然素材でつくられ、またそれが占有する面積は最小です。極めつけはミズグモの巣で、これはなんと空気の泡です。ミズグモは、水中生活する唯一のクモで、日本では北海道に生息しています。水の綺麗な、水草が多い池などに棲息し、水草の間に薄く糸を張ってそこに水面から運んできた空気を溜め込み、泡状の部屋を作ります。これ以上のエコな構造物があるでしょうか。

巣は何のためにつくられる?

さて、次に、巣で何が行われているのか、見てみましょう。

同書にはおさめられていないのですが、ミゾゴイという鳥の巣を見てみましょう。

日本だけで繁殖を行う鳥で、日本の里山で古くから親しまれてきた鳥であるにもかかわらず、絶滅が危惧され、環境省が対策に乗り出している鳥です。

「ミゾゴイは、およそ標高1,000m 以下の平地から低山帯の広葉樹林及び針広混交林に生息するサギ科の夏鳥で、ほぼ日本のみで繁殖する。主に樹冠が閉じて薄暗く湿潤な谷地形に営巣することが多く、営巣地を含む森林に生息する土壌動物をはじめとする小型の動物を採食し、その食物網の上位に位置している。つまり、ミゾゴイは、国土の約4割を占める里地里山地域の中でも、このような条件にあう一部の環境を利用しており、ミゾゴイが生息することは、地域の環境の多様性や、森林の生物の豊かさを示しているということもできる。
ミゾゴイはかつて現在よりも身近に生息していたと考えられる1。しかし、その個体数は1960 年代以後2000 年頃まで継続的に減少したと考えられる(Kawakami et al 2003)。減少要因は、越冬地や渡りの中継地となる東南アジアにおける森林の減少や、日本における繁殖環境の減少、捕食者の増加であると考えられる。日本における繁殖環境の減少は、営巣適地である森林の伐採、土地の開発、整備に伴う造成等が行われることにより生じてきた。
近年のミゾゴイの生息密度や個体数の変動傾向は必ずしも明らかではないが、ミゾゴイの繁殖地がほぼ我が国に限られることを踏まえ、ミゾゴイが生息していることが意識されないまま繁殖環境が減少し、それが個体群の維持に影響を与えることにつながらないよう、我が国においてミゾゴイ及びその生息地保護のための対応を適切に行うことが重要である。」(「ミゾゴイ保護の進め方」(平成28 年6月 環境省 自然環境局 野生生物課))

身近な鳥のわりにはその生態はあまり知られておらず、最近まで夜行性と思われていたが、川名国男さんという民間の研究者の地道な努力によって、その生態が明らかになり、昼行性ということがわかりました。(『ミゾゴイ~その生態と習性~』(川名国男著・発行 2012)

同書のなかにミゾゴイの巣を調べた写真が掲載されています。
「採取した古巣は、外径訳70㎝、内径約20㎝、厚さ約15㎝で、巣材はケヤキがほぼ100%でヤマザクラ、クリ、マダケの枯れ枝が数本使用されていた。巣の外部には長さ50~60㎝の枝が使用され、内部になるにしたがってより細く短くなり楊枝棒大の枝まで使用されていた。産座にあたる部分の広さは、直径約15㎝で水平に近い。卵が転がり落ちないように小枝の隙間が滑り止めになっているようであった。なお、産座には、枯れ枝以外のものはコケや草の根など一切使用されていなかった。」
「ミゾゴイの巣は粗雑な巣であるとすべての図鑑類に書いてる。確かに小鳥のような精巧な巣ではない。しかし、粗雑に見えるが簡単に崩れないよくできた巣である。雨の多い季節に子育てするのに水はけのよい素材と構造で巣や雛を汚すことがない。巣は、5月の強風が吹く時には大海の小舟のように枝ごと揺れるが落ちることはない。翌年に再利用することもある。ミゾゴイの巣は、日本の風土に適した合理的な巣であると言える。」

ミゾゴイの繁殖地は、日本の本州、四国、九州及び伊豆諸島等の標高1,000m 以下の平地から低山帯等であるが、越冬地はフィリピン等の東南アジア、台湾等とされており、広大な生活域を持っています。
採取した古巣を見て川名は「この小さな舞台で、3羽の雛と親鳥が、39日間にわたり、壮大なドラマを繰り広げたことに深い感慨を覚えた。巣は、枝から外すときに底部分の巣材の一部が落ちたが、細い巣材が組木細工のように絡み合い全く崩れなかった。」と述べています。

ミゾゴイの巣は、産卵から孵化、抱卵をへて幼鳥を育て、巣立ちさせるまで、まさに子育てのためだけにつくられ、その目的のために最適化されているのです。

私たちのすまい=ヒトの巣

さて、ひるがえって私たちのすまいを考えてみます。
まず、構築物としてみた場合の空間の占有面積では、生きものの巣の中では最大です。
生きものの巣は、ほぼ子育てのために構築されることがわかりましたが、私たちのすまいでは、何が行われているのでしょう。

これに関してはすでに石毛直道の『住居空間の人類学』(1971年、鹿島出版会)のような、先達たちの優れたフィールドワークがあり、住居空間で果たされている行動が分類・分析され、それらが民族・文化によって異なることが明らかになっているのですが、ここでは、少し乱暴ですが直接的なアプローチをしてみたいと思います。
これは、大学での講義の時によく行うのですが、学生たちに「家ですること」をなんでもいからとにかく思いつくままに書いてもらいます。たとえば「息をする」「寝る」「食事をする」「テレビを見る」・・・、それを集計してまとめると、2~300のワードの集合ができあがります。
おもしろいのは、最近では男子も女子も「筋トレ」という言葉が必ず入ること。

このなかから、家でしかやらないことだけをピックアップするのです。

「息をする」のは家ばかりでなくどこでもします。「食事をする」のも外食やお弁当を食べたりしますから、家でなくてもどこでもやります。「寝る」のもホテルや旅館でできますから、家に限ったことではありません。こうしてどんどん除外していきます。
「家でしかやらないこと」。最後に残るのは、意外な言葉です。
たとえば、「ものをしまう」「洗濯物を干す」「お金を隠す」など。
子育てに関してはどうでしょう。「授乳をする」「あやす」「オムツをかえる」などは、たとえば家の外でもデパートの授乳室などどこでもできます。
こうして除外していくと、最終的に残るのは、「子供を(ひとりで)寝かせておく」「お風呂に入れる」ぐらい。

空間の「占有」そのものが目的?

「ものをしまう」「洗濯物を干す」「お金を隠す」「子供を(ひとりで)寝かせておく」「お風呂に入れる」・・・。

これらは何を意味するでしょうか。
意外なことに、家でしかできない(しない)ことは、案外さほど多くはなく、生活活動の大半は家の外でもできるということ。
日常の生活行為は、社会的インフラやサービスを使えば、実はその大半が住まいのなかでも外でもできるのであって、私たちの生活は、個人的な活動であってもすでに社会資源を使って社会の中で行っているのであり、こうした意味では十分社会化されていることを示しています。逆に、災害時にインフラが止まってしまえば、家でトイレをすることすらできません。

すまいの中だけで行うこととして残るのは、ものを安全に保管や管理すること、必要に応じて第3者を排除できることぐらい。
これはつきつめて言えば「場=空間」を占有すること、ただそのことに集約されそうです。

ミゾゴイの例で見たように鳥の巣が完全に子育ての目的に特化されてつくられ、またそのために最適化されていることを考えると、人間の巣=家は大きくそのあり方が異なっています。
鳥の巣が子育てに必要、最小限の規模を持っているのに対し、占有することを目的とした人間の家は、最適な規模という概念を持ちません。生活に必要な規模をはるかに超えて広大な敷地や建築面積を占有する豪邸が建てられるのもこのためです。

場の「占有」することは、その面積の大小にかかわらず、すまいにおいて発生するストレスの根源的な原因と考えられるのですが、その辺の詳しいことについては、また次回以降で。

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